Detail
2023年12月6日 (水)にThe Garden Hallで単独来日公演を控えているd4vd。
バイラルヒット曲『Romantic Homicide』を持ち、たった2年で世界的に大きなファンベースを持つに至った18歳にはどんな秘密があるのか? これだけのスピードで成長することができたのはなぜなのか? その秘密を探り、ブログで公開することによって、音楽プロモーションを依頼してくださっている当社クライアントさまの参考になると考えました。今回はPlutoでもプレイリストのセレクターとして活動しているライターの草野虹にd4vdに関するコラムを執筆してもらいました。ぜひご覧ください。
ゲーマーからアーティストへ
“d4vd”と書いて、あなたはどう読むだろう。
日本のみならず海外にもインターネット・カルチャーは当然広がっている。そのなかでもミームやジャーゴン(業界用語)が様々あるように、単語の読ませ方も変わってくる。4をAと読ませ(変化させ)るこの書き方で、デイヴィッドと読む。アメリカ・ヒューストンで2005年3月に生まれた18歳、インターネット・カルチャーから登場したシンガーソングライターだ。
両親がクリスチャンであったことが大きく影響し、d4vdは生まれてからすぐに教会にいき、聖歌隊の一員として歌を歌い、ピアノやフルートのレッスンも受けていた。だが12歳ごろには聖歌隊をやめ、友人らとともにゲームを楽しむ普通の男の子へと変わっていった。
彼がアーティストとしてその存在感を高めていったのは、大人気ゲーム『Fortnite』の影響が非常に大きい。なんとプロプレイヤーを目指していたほどであったといい、プレイ動画をYouTubeで定期的にアップしていた。彼は音楽活動を始める前はゲーマーであり、ストリーマーでもあった。
・So I joined Team VIZION a Fortnite Montage
・this has 1 million views for no reason
実際の動画はこのような感じだ。
さてご存知かとおもうが、ゲームのプレイ動画をアップしようとした際に、BGMに有名な楽曲を使っていると権利侵害とみなされ、投稿されたプレイ動画が取り下げられてしまうケースがある。
d4vdが音楽を作りはじめるキッカケとなったのは、自分のプレイ動画を何度となく取り下げられていた時、母親から「自分で作った音楽をBGMにしてみたら?」と勧められたからだという。
彼はアドバイスを聞いて早速制作に取り掛かることになる。とはいっても、ギター、キーボード、サンプラーといった楽器を買うことも、LogicやFL STUDIOといったDTMソフトを買うこともなかった。
オンラインで音楽制作ができる「BandLab」をiPhoneにいれ、エディット画面でインスト音源制作に勤しみ、自分の声をメロディに乗せて作っていく…最初期の音源「Runaway」「You and I」の3分にも満たない音楽には、どこか地に足がついていない、「いったいどうしようか?」といった面持ちの浮ついたメロディラインやボーカルがある。
当時まだ覚束ない手で楽曲を作っていたd4vdの姿が目に見えてくる。
d4vdの音楽遍歴・ブレイクに至るまで
なんとも2020年代らしい音楽制作だと思うが、d4vdの音楽遍歴も面白い。
先述した聖歌隊に参加していたこともあり、15歳までは主にゴスペルやジャズを聴いていたというが、それ以外の音楽を聞くことがほとんどなかった。
そんな折に、友人がバスのなかでかけたLil Pump「Gucci Gang」を聴いたことで、他の音楽にも興味を持つようになったのだ。
その後の彼は、Smokepurpp、XXXTentacion、Ski MaskといったSoundcouldを中心としたラッパーらに、The Neighbourhood、Arctic Monkeys、Wallows、Mac DeMarcoといったロックバンド、他にもLaufey、Paramore、The Deftonesもリスニングしていると海外インタビューで答えている。
しかもこれらの音楽の多くは、ネット上にある『Fortnite』のファンコミュニティから見つけたというのだから、なんとも現代らしい。言ってしまえば、音楽のヘビーリスナーの耳や価値判断ではなく、ゲームファン達のフワッと楽しむ温度感のもとで、彼は音楽を楽しんでいったということだ。
さて、先程話題に上げた「Runaway」「You and I」2曲をリリースしたのは2021年末から2022年初めのこと。まだd4vdが16歳から17歳のころだ。その後数ヶ月と経たないうちに10曲近くを制作・リリースしたのち、2022年7月には「Romantic Homicide」「Here with Me」の2曲をリリースすると、これが大きなヒットを飛ばすことになった。
・d4vd – Romantic Homicide
・d4vd – Here With Me [Official Music Video]
ここまでで重要なのは、d4vdがストリーマーや配信者としてどれほどの人気を集めていたかは現段階では計り知れないが、彼がそれまでにゲームプレイの切り抜き動画をいくつも投稿していたことで、そもそも最初から広まりやすいファンダムや友人関係を築けていたことにある。
それまでゲームを中心にしていた活動者が、音楽を自作し、徐々にそちらに力を入れていくことに当時の彼のファンはビビッドに反応しただろう。TikTokやSoundcloudに投稿した自作の曲をフリーで使えるように許可を出していたこともあり、TikTokでは彼の楽曲を使ったクリップが大量に作られる一助になった。
そうしてジワジワと熱を帯びた時に、「Romantic Homicide」「Here with Me」がリリースされ、それまで以上のファンを生み出すほどのキラーチューンとなったわけだ。
この2曲のブレイクに関して、d4vd本人は面白い試みをしている。
“Hoping to find a broader audience for his music, d4vd started uploading his songs to TikTok. At first they were jokey covers with his voice pitched up so he sounded like a chipmunk. “I didn’t know how it was going to go, so I thought: let me do what I know best, which is memes,” explains d4vd. His tactic worked, and he’d soon attracted some 500,000 followers. Then, he changed direction.”[訳]自分の音楽をもっと多くの人に聴いてもらいたいと思ったd4vdは、TikTokに自分の曲をアップロードし始めた。最初彼の声がシマリスのように聞こえるような、ピッチを上げたジョークのようなカバーだった。「どうなるかわからなかったので、自分が一番得意とするミームをやろうと思った」とd4vdは説明する。彼の戦術はうまくいき、すぐに50万人のフォロワーを集めた。
出典:d4vd is pop’s new DIY innovator
https://www.nme.com/features/the-cover/d4vd-the-cover-interview-petals-to-thorns-3448366
@d4vdd let me know when to release lol #fyp #alvinandthechipmunks #FilmTeyvatIslands #trending #viral #sound #blowthisup
@d4vdd Replying to @bustouttahere link is in the bio my love #FilmTeyvatIslands #fyp #trending #viral #blowthisup #original
d4vdは自身のTikTokアカウントでシマリスの声のようにキーを高くして変声したトラックをいくつか公開。それが一気にファンダムに広まったところで、2曲を投下し、ブレイクを呼ぶことになった。楽曲をリリースする前にTikTokで楽曲を十分に広めることで、爆発的なバズが起きる予兆・予感を整備していく流れは、WurtSやなとり、最近でいうと「fake face dance music」をヒットさせた音田雅則に通じるものがある。
2022年8月にはビリー・アイリッシュが所属するレーベル・ダークルーム/インタースコープ・レコードからデビューした。そこから約1年、彼は2023年初めからライブツアーをスタートさせ、そのまま日本初来日となったフジロック2023・レッドマーキーに出演したのだ。
5月には『Petals to Thorns』を、9月には『The Lost Petals』と2枚のEPを発表しており、ツアーに音源制作にと大忙しだが、海外メディアのインタビューでサラッとこのような言葉を発している。
“If you’re living, if you’re existing, if you can breathe, that’s inspiration in itself. There are endless things to write about and I can just do it constantly. My record is, what, 10 songs? I can make 10 songs in one night.”[対訳]生きていれば、存在していれば、息をしていれば、それだけでインスピレーションになる。書くべきことは無限にあるし、常に書いていられる。私のレコードは10曲だっけ?一晩で10曲は作れるよ
出典:d4vd is pop’s new DIY innovator
https://www.nme.com/features/the-cover/d4vd-the-cover-interview-petals-to-thorns-3448366
d4vdのブレイクから見えるインターネットカルチャー ブレイクを果たすには避けて通れない?
オンラインゲームで培った友人・ファン・コミュニティ、TikTokやYouTubeを中心としたインターネット・ミームの拡散力。こういった部分をよく知り、それまで知らなかった刺激的な音楽の数々をヒントにしながら楽曲を制作していく。そして何よりも「ひとを楽しませる才覚」を持ち合わせていたティーンエイジャーだったからこそ、彼はここまで活動を広げることができたのだ。
ベッドルームポップと呼ぶにふさわしいその柔らかいサウンドと音楽性は、インターネット・カルチャー出のさまざまなクリエイター/シンガーに共通している。日本のアニメ作品から大きなインスピレーションを得てMVを制作しており、「好きな日本のアニメは?」という問いかけに友人とともに矢継ぎ早に答えている姿も捉えられている。
・家族で初来日!人生初の寿司に大感激!アーティストd4vdが日本食に感動
日本にフォーカスして考えてみよう。
ゲーム実況者やストリーマーから世界を股にかけるシンガーへ、そんなキャリアを歩んだひとは日本国内では確かに見当たらない。
すこし広く捉えて、インターネット上の活動者全体と捉えると、ようやくd4vdと同じような活動をしている存在が見えてくる。それはVTuber、それは歌ってみたや踊ってみたの活動者、それはYouTuber、もしくはそういった大げさな括りに入らずとも地道に活動してきた者たちだ。
日本国内から海外へと目を移せば、d4vdのようなインターネット上の活動者の先達として、88rising・ワーナーミュージックに属するJojiを思い出す。
YouTubeチャンネルとしてDizastaMusic・TVFilthyFrank・TooDamnFilthyといったチャンネルと通し、いわゆる過激系YouTuber/コメディアンらしい活動で有名になり、2017年には一度活動を休止し、現在の名義・Jojiとしての活動を本格的にスタートさせた。
その後の活躍は目まぐるしいので割愛するが、
1:音楽ではないエンタメを通じてインターネット上のファンダムを作り上げている
2:インターネットカルチャー内のミーム・ジャーゴン・ジョークなどの温度感や潮流を理解し、積極的にノることができる
3:さまざまな音楽を聴き、フレッシュな感性でクリエイトすることもできる
シンガー・演奏家としてインターネット・カルチャーで飛び出したわけではない両名ではあるが、この3点を共通して持ち合わせているのだ。
逆に捉えてみれば、音楽を通して大きなファンダムを持ったタレントが、他のシーンへと飛び込んでいく形も当然ある。日本だけでなく世界的にだが、2020年3月のコロナ禍のなかで多くのタレントがこぞってYouTube・TikTokチャンネルを立ち上げて活動しにいったパターンは、まさにこの活動形式そのものであろう。
その際に注意すべきは、タレント本人ならびにタレントのファンも含め、インターネットカルチャーとどれほどの理解・親密度があるか? 別ジャンルのエンタメでもフレッシュな輝きを放てるか? という点であろう。
こうして見つめてみると、彼らのような存在はそもそも少数派、ブレイクした存在となると当然数少ない。だが今後発展していくであろうインターネット・カルチャーのなかで、彼らのようなヒットを飛ばす存在も徐々に増えていくのではないだろうか?。
執筆:草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。KAI-YOU.net、SPICE、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして参加。音楽プレイリストメディアPlutoのプレイリストセレクターとしても活動中。
Twitter:https://twitter.com/kkkkssssnnnn
note:https://note.com/grassrainbow1
▼当社・Gerbera Music Agencyのブログはこちら
SHARE
For Brand
ブランドの方へ
音楽をきっかけとして
メッセージを届けることができます
私たちは、音楽愛に基づく企画力と、音楽業界との信頼ある繋がりを元に、音楽を通してブランドと生活者の新しい接点をつくるプロジェクトをサポートしています。企業プレイリストの制作数は日本一。その他ポッドキャストやキャスティングなどブランドの音楽企画も多数実績がございます。非公開実績は資料で紹介しているため、お気軽にお問い合わせください。一緒に音楽プロジェクトを始めましょう!
→ ブランド向けサービスを見るRecommend Music
おすすめ音楽
GMAが運営するプレイリストメディア『Pluto』セレクターが今おすすめ音楽をプレイリスト『Pluto Selection』を隔週更新中!
また、セレクターがプレイリストの裏側をゆるく話すポッドキャスト『Pluto radio』も日々更新中!ぜひチェックしてみてください。