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東郷清丸とMomが夜の街に「人の温かさ」を爪弾いた日 『Pluto Sparkle vol.2』ライブレポート

2022.11.30

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プレイリストメディア「Pluto」が主催するライブイベント『Pluto Sparkle』の第2弾公演が、2022年11月12日に開催された。

今回ライブを披露してくれたのは、東郷清丸さんとMomさんの2組だ。

楽屋にて、東郷清丸さん(右)とMomさん(左)

Plutoにて収録したポッドキャストでは2人によるトークが聴くことができるが、なるほどこの2組、その音楽スタイルは似ているようで似ていない、趣味性も近しいようでいて近しくない、まさに絶妙な距離感にいるのが分かる。


カナダの女性SSW・ファイストに深い愛情を向けている東郷さん、ディアンジェロのアルバムをしっかりと聞きこんでいるMomさん、お互い自身の好きな音楽を挙げて会話してるが、司会である峯が「こちらって聞いたことありますか?」と聞くと、お互いに推薦した相手の音楽を「聞いたことがない」と答えている。

これと対照的なのは、Momさんが「空間を録るひとが好き」「音楽が鳴っているときの空間、魔力を意識している」と語ると、その言葉に頷く東郷さんの姿が息遣いだけで伝わってくる。好きな音楽は違うが、ほとばしらせているセンスは近い、そんな「近そうで遠い」存在同士が面と向かい合い、音を重ね合った一夜だった。

会場はビートたけし氏の故郷でもある「浅草フランス座演芸場 東洋館」。音楽イベントが行われるのは珍しい
180ほどの座席は満席に。幕が開いてスタート!

19時30分から始まった今回のライブ。最初に登場したのはMomさん。

Momさん

11月2日には最新アルバム『¥の世界』を発表したばかりの彼。前日には「¥の世界のモードで喋るように歌うぞ」とTwitterに書き、アコースティックギターのみのパフォーマンスには注目が集まるところであった。

ほとんど1人で作業してきたと語る彼のトラックメイクは、ヒップホップの影響を強く残しつつ、拍の取り方やリズムパターンが一聴すると取りづらい曲もあれば、パっと聞いてポップで聞きやすいものもあったりと様々。

この日のライブでは、自分の声と手元にあるアコースティックギターのみ。曲を表現するためのコード進行もリズムも普段に比べれば、当然表現しづらくなる。彼にとって、いやおおよそのミュージシャンにとって「アコースティックライブ」とは、いわばルールを縛ったゲームプレイのようですらある。そんななかでどんな真価を発揮してくれるのか、期待するファンは多かったろう。

優しいタッチと丸っこい歌声を活かして始まった「終わりのステップ」「泣けない人には優しくない世界」から、細かいカッティングから始まった「ロストシング」は原曲とはまた違ったシリアスさを宿すことに成功していた。

「なんかこう、お互いに食い込んだことをやったほうが良いのでは……?」とよそよそしく観客に手拍子を求めて始まったのは、昨年発表された『終わりのカリカチュア』のラストを締めくくる「カーテンコールのその後で」だ。

カーテンコールのその後で

好きにやろうぜ

とりとめのない話を弾ませ

手を叩こうぜ

光はそれぞれの胸にあって

東京タワーやスカイツリーにはないよ

だから君は僕に出会うのさ

いつだってそばにいるよ

コードをかき鳴らしながら朗々と歌い上げていくMomさん、ポッドキャストやMCなどを通して目についていた柔和な態度とは思えないほどに、彼が「人の弱さをジっと見つめられる強さ」をもった人物なのだと感じさせてくれる。

どの曲であったかは定かではないが、自分がパフォーマンス中に会場に来場していた赤ちゃんが思わず「ワッ」と声を上げても、笑顔でそちらを見やるほどに、彼の心は柔らかく、それを受け止めれる強さがある。

ギターをポロンと弾きながら、話すように歌っていく彼。メロディに対して字余りの歌詞を無理に詰めて歌うのも、今日はラップのように乗りこなすのではなく、フォークシンガーのような形に詰め込んで歌っていたのが印象的だった。

柔らかい歌声にのせて届けられたメロディと言葉はすこしだけイビツでトゲがあるが、だからこそ心を捉えて離さない。そんなシンガーソングライター・Momさんとしての顔を楽しめた一夜だったといえよう。

東郷清丸さん

次に登場したのは東郷清丸さん。Momさんとは違いこれまでに弾き語りライブを何度となくこなしてきた彼、ライブ中には「今年はこれまで60本くらいやってきたのかな?」と語っていたが、そんな巧者っぷりを見せつけてくれた。

彼が持つのはエレキだが、音量はグッと抑えめで、フィンガーピッキングで演奏し続けて楽曲にさまざまに表情をつけていく。おまけに彼の歌声も「歌う」というよりも「ささやく」に近いような歌い方で、子守歌のように感じさせてくれるときがあるほど。

土曜の浅草の夜は、飲み遊びに多くの人で賑わっていた

1時間ほどのライブで13曲、始まってから約30分ほどで7曲をスルスルっと披露する。そんなライブ進行もあり、クールかつ淡々と音を重ねながら、人懐っこくて温かみのあるサウンドが広がっていった。彼の飄々とした風貌とマッチしたムードになっていくのを筆者は少しずつ感じていた。

ギターの単音弾きでメロディを追ってユニゾンしたり、ミュート、ブラッシング、ハーモニックスを時々に差し込んだりと、より「ギタリスト」らしいフレージングやプレイングでニュアンスをつけ、彩り豊かに楽曲を表現していく。ここに東郷さんのスっと消え入りそうな淡い歌声が合わさることで、ユラユラと揺らめくように日常を描く彼の世界が広がっていった。

「はるまつワルツ」「ロードムービー」「美しいできごと」「ぽつんとシュロが、」をファルセットを上手く使った淡い歌声とフリーキーなギター演奏でどんどん披露していく。

昨年末には弾き語りデモアルバム『余生Ⅲ』をリリースしており(Spotifyなどには発表されていない)、徐々に弾き語り師・東郷清丸としての性格が表に出ているなかで、「ヨ生」「はどう県」もこのライブで披露し、最後を締めたのは「あしたの讃歌」だ。

うちには子供が三人います。

眠って起きては遊びに出かけ

疲れ果てるまで歌を歌っては

明日の夢みてまた眠る

明日も生きていけますように。

自身に子供が生まれ、地元の横浜に拠点を移して2年ほど。自身の生活を音楽として歌い上げるフォークロアな心をコアにした彼の音楽にとって、ライフスタイルの変化は音楽そのものを変えてしまったようでもある。

柔和な歌心を大切にしながら、さまざまなタッチとテクニックで広げていく。ポッドキャストtで語ったような「音が鳴らされている空間」が徐々に広がっていき、優しく東洋館を包んでいた。

2人それぞれのパフォーマンスを終えると、Momさんを呼び込んで2人のパフォーマンスが始まった。ポッドキャストの帰りがけにやりましょうか?ってお互いに言っていた曲をやります」と先に話してから奏で始めたのは、奥田民生の「息子」だ。

ほうら 目の前は紺碧の青い空だ

翼などないけれど 進め

そうだ あこがれや 欲望や 言いのがれや

恋人や 友達や 別れや

台風や 裏切りや 唇や できごころや

ワイセツや ぼろもうけの罠や

父親から息子へと贈る応援歌として知られるこの曲、そのリリシズムはとても色濃い。部屋の隅っこでイジける息子に一声かけて励ましたあと、その息子の未来を想う男の唄は、優しさを超えて慈しみに似た感情を浮き彫りにする。

サビは二人で歌い、綺麗なハーモニーに

その感情は、2人それぞれのソフトな歌声になって、あるいは弦をつまびく指先のタッチや音色となって、会場の空間に広がっていった。終演を迎え、左右から幕が引かれていくなかで、2人は満面の笑みを観客に見せていた。

幕が閉まり拍手が鳴り止まない中で手を振るお二人

近いようで遠い2人と彼らを評したが、この世界、この社会、この世へ向ける眼差しは、この2人は似たものを持っているのかもしれない。

セットリスト

Mom

  • 終わりのステップ
  • 泣けない人には優しくない世界
  • タクシードライバー
  • ロストシング
  • カーテンコールのその後で
  • Topics (My Little Lover カバー)
  • フリークストーキョー
  • 青い花
  • 続・青春

東郷清丸

  • ヨ生
  • ゆくゆくソング
  • アノ世ノ
  • はるまつワルツ
  • ロードムービー
  • 美しいできごと
  • ぽつんとシュロが、
  • はどう県
  • 朝のバード
  • キ・た・い
  • 多摩・リバーサイド・多摩
  • L&V
  • あしたの讃歌

東郷清丸 × Mom コラボ演奏

  • 息子(奥田民生 カバー)
終演後、映画『浅草キッド』にも登場した東洋館の屋上にて

『Pluto Sparkle vol.2 東郷清丸 × Mom』


2022年11月12日(土)

https://pluto-sparkle.gerbera-music.agency/


・出演:東郷清丸、Mom
・会場:浅草フランス座演芸場東洋館
・企画/ディレクション:石松豊(orange plus music)
・PA:大場傑、福田新、古閑幸紀

・照明:久岡桂子
・撮影:塙薫子
・イベントレポート執筆:草野虹
・ポッドキャスト取材:峯大貴

・ポッドキャスト録音/編集:大野裕司
・運営スタッフ:岡本美柚、小泉里菜
・フライヤーデザイン:神明篤志

Special Thanks
・出演者マネージャー:成瀬未帆(ビクターミュージックアーツ)
・会場担当:福嶋 様
・All of Gerbera Music Agency and Pluto members!

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