約2ヶ月ぶりのブログになります。
『音楽ライターはパブリシスト(広報・PR担当者)にもなれる』と前から思っていたので、今回はそのことについて書きます。
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<目次>
1. 音楽ライターの顧客は音楽メディアだけか?
2. ミュージシャンは情報の拡散を『音楽メディア』に依存する必要はない
3. ミュージシャンのチームにライターを入れる時代がくる
音楽ライターの顧客は音楽メディアだけか?
音楽ライターが生み出せるコンテンツは多岐にわたります。ライナーノーツ、インタビュー、ライブレポート…。これらは主に雑誌/Webのメディアに提供することによってギャランティが発生しますが、必ずしもそうではないケースもあります。
以前とある有名な音楽ライターさんから『レーベルから依頼を受けて記事を書いたことがある』と伺ったことがあります。
◆(音楽ライターが)メディアから依頼を受けてミュージシャンの記事を書き、(メディア側から)対価を得る
のではなく、
◆レーベルから依頼を受けて(そのレーベルに所属している)ミュージシャンの記事を書き、(レーベル側から)対価を得る
ということです。
依頼主がレーベルの場合、記事の提供先についてはケースバイケースで、
1. メディアにニュースとして配信するケース
2. メディアに企画として持ち込むケース(当然手数料が発生するケースもあると思います)
3. そのミュージシャンのオフィシャルサイトで公開するケース
など、さまざま想定できます。
ミュージシャンは情報の拡散を『音楽メディア』に依存する必要はない
依頼主が音楽メディアではないケースはもっと増えていくと予想しています。
依頼主はレーベルでも事務所でもミュージシャン自身でもいいのですが、ミュージシャン自身が編集部をもち、そこに音楽ライターが所屬し、主にオフィシャルサイトでコラム的な記事が公開されていくケースがこれから増えていくと思っています。
そう考える根拠は『ファンと直接つながることができるようになったから』なのですが、もう少し詳しくお話します。
米国では、ブランド自身がメディア化し、情報発信をしていく、いわゆるブランドジャーナリズムという手法(概念と言ったほうがいいかも)が広まっています。
ブランドジャーナリズムについて詳しく言及されている記事を以下に引用します。
商品・企業情報を語るだけのサイトから、 ブランドのストーリー、ブランドとファンとのストーリーを紹介する雑誌的メディアへ。
引用元:コンテンツマーケティングとは何か? その本当のところ What is exactly content marketing?
要するに、企業(ブランド)が一方的に自分の訴えたいメッセージをばらまくのではなく、企業自身が生活者にとって有益で役立つ情報をコンテンツとして提供していくという考え方だ。
つまりは、ブランド自身がメディア化し、情報発信をしていく、それがブランドジャーナリズムだ。リリースを書いて、配布し、Earned mediaへの掲載を待つだけではなく、自社内のニュースルームで、自らコンテンツを作成し、Owned media やSocial mediaを通じて、情報を拡散させていくやり方だ。この傾向はアメリカのPR業界の最も特筆すべきトレンドの一つである。
引用元:米国PRのパラダイムシフト 「ブランドジャーナリズム」とは何か?
ミュージシャンに置き換えて言うと、オフィシャルサイトでライブや新譜の最新情報を発信していくだけでなく、自分たちのストーリーを伝えていく場としても活用していく、ということになるでしょうか。
ブランドジャーナリズムという考え方はブランド(=企業)のマーケティングやPRの文脈で語られることが多く、果たしてそれがミュージシャンの情報発信のありかたとどれだけフィットするかは未知数です。
しかし、リスナーと直接つながることが可能になった現在、ミュージシャンは情報の発信源をメディアに限定しなくてもよい。むしろ、平行して自ら記事を生み出し発信していくべきだと、僕は考えています。
音楽メディアが要らないということでは決してありません。僕も半分はメディアの編集の仕事をしてます(エージェント仕事50:編集者仕事50)ので、自前でやるメディアと音楽メディアでは役割が異なるのは認識しています。
音楽メディアの良い所は、
・普段届けられない層のリスナーに届けられる
・普段届けられない人数に届けられる
・掲載されること事態がそのミュージシャンのブランドを向上させる
・業界関係者やフォロワー数万人のミュージシャンの目に触れる可能性がある
など…
しかし、音楽メディアは万能でもありません。
・全てのリリースを掲載できるわけではない(日々、限られた枠の争奪戦)
・膨大な情報が日々流れるため、埋もれるリスクはある
・情報が『ニュース』の体を成していないと掲載しにくい
・出稿を要する記事の場合、予算に余裕のないミュージシャンは手が届かない
など、これまでカバーされて来なかった部分があります。これを、ミュージシャン自らが編集部をもつことで埋めていけばいいと思います。
ミュージシャンのチームにライターが加わる時代がくる
今後、パブリシスト(広報・PR担当者)の能力をもったライターの需要が高まっていくと予想しています。
仮にレーベル/事務所/ミュージシャンから依頼を受けて記事を書く場合、音楽ライターには通常とは異なるライティングスキルが求められます。なぜなら以下2つを同時に満たす必要があるからです。
◆依頼主の意向には沿わなければならない
◆しかし、提灯記事にならぬよう客観性のある文章を書かなければならない
時には、依頼主に間違いを指摘する提案力も必要になります(『こんな宣伝ばっかの文章、誰も読んでくれませんよ?』とか『新規のリスナーさんにも読んでもらえるよう、内輪ノリになりすぎないようにしましょう』とか…)。
依頼主と読者のニーズを汲み取り、ちょうど良い落とし所を見つけられるライターさんでないと依頼主と読者の両方を満足させることはできません。
そういった意味で、これらを満たすライターさんを見つけるのは容易ではないと思います。依頼主側のハードルも高いです。ライターさんをディレクションしなければなりませんし、相応のギャランティを払う予算も必要です。
つまり、自ら編集部をもつというのは言うのは簡単ですが実行するのはかなり難しい。
ただ、何組かのミュージシャンはいずれこれを実行してくると予想します。
音楽ライターが音楽メディアに依存しなくてもよい環境ができればいいなぁ。
追記1(2015年)
少なからず反響があり、驚いております。ありがとうございます。
音楽ライターはミュージシャンのパブリシストになればいい http://t.co/I9WF95SGvG
ACCやLucky Tapes、ceroの新譜特集ページとかもオウンドメディアで、ホームページに自分達のインタビュー載せてて不思議だなと思ってたけどこういうことなんだ。
— Satoshi.I (@sakusakism) 2015, 8月 17
仰るとおり、Awesome City Clubやceroは自分たちの特設サイト(たぶん制作をディレクションしたのはレーベル)でインタビューを公開していますね。
◆Awesome City Club SPECIAL INTERVIEW
◆ライター・磯部涼によるスペシャル・インタビュー!(cero)
◆『Obscure Ride』インタビュー(cero)
本当はこんな感じで、ひとつひとつ丁寧にコンテンツを出していけるのが理想なんですが、予算を考えるとなかなか…今回のブログで書いた内容に一番近いのはHomecomingsのインタビューのように、オフィシャルサイトの中に組み込んでしまう形ですね。
◆7/11渋谷クアトロ「NIGHT OF PEPARTOWN」スペシャル対談(Homecomings)
新譜のリリース時期に関係なくPRができる状態になるのは、ブランドジャーナリズム(本当はこの言葉使いたくなかったけど)の良いところの1つだと思います。
あまり言及するとこれからやろうとしていることがバレてしまうので、また次回書きます!
追記2(2016年)
このブログで書いているようなことを実際にやりました。
詳細は以下に書いていますので、良かったらあわせてどうぞ。