デモ音源から完成版まで。楽曲の制作過程を公開する記事の第6弾です。
今回は上原さんにボーカロイドの調教/編集のコツについて質問してみました!かなり内容の濃い対談になっています。
前回までの記事はこちら
作曲やミックスの知識が身につく:楽曲制作のプロセスを全て公開します 1
ボカロの作曲やミックスに役立つ:楽曲制作のプロセスを全公開します 2
ギターのレコーディングのコツとは?楽曲制作のプロセスを全て公開します 3
ボカロ曲をミックスするときに知っておくべきコツとは?楽曲制作のプロセスを全て公開します 4
ついに新曲『全力症状』公開!そしてchoroさんに曲作りの極意について質問してみた(5)
おふたりのプロフィール
choro (x_choro_x)さん
http://choroidea.com/
2010年、ロックバンドJeeptaの
ギタリストとしてメジャーデビュー。
インディーズ時代から幅広く活動し、
年間90本以上のライブを敢行。
ROCK IN JAPAN FESをはじめとする
大型フェスにも多数出演。
独特なライブパフォーマンスに定評があり、ブルース、ロックを基礎として生み出されるペンタトニックフレーズは多彩。
ShoUehara (upopo_sho)さん
http://shouehara.wordpress.com/
Recording / Mix / Mastering Engineer
2004年、レコーディングエンジニア目指して上京。
2005年、HAL Studioに入社し、DJ KrushやSPANOVAから、Superflyや西野カナなど、幅広いジャンルのセッションワークに数多く関わり、エンジニアリングを学ぶ。
2012年、HAL Studioを退社。
2013年、フリーランスとなり活動を始める。
最近では、CDショップ大賞のジャズ賞を受賞したfox capture planのレコーディング/ミックス/マスタリングなどを務めている。
今回の対談のテーマとなった楽曲『全力症状』はこちら↓↓
choro
今回は上原さんにボーカロイドの編集テクニックについて伺おうと思います!
まず初めに、ボーカロイドソフトのパラメーターが、エンジニアが使うパラメーターとどう対応しているのか知りたいです。
VOCALOID3のパラメーターには、VEL、DYN、BRE、BRI、CLE、OPE、GEN、POR、PITといったパラメーターがあるんですが、ボーカロイド特有と思われる下記のパラメーターについて説明してもらえますか?
↓↓パラメータ変更なし
これに各パラメータの、最小値、最大値で比較していきますね。
choro
VEL(ベロシティ)…音量・発音系
「さ」「た」「は」行など子音の長さを調節。この値が小さくなると短く歯切れよく発音され、値を大きくすると伸ばし気味に柔らかく発音するって感じのパラメーターです。
↓↓VEL最小値
↓↓VEL最大値
上原
なるほど。これをエンジニア側で再現するとなると少し難しいところもありますね。
例えば長い音を短くするのは比較的簡単なんですが、短い音を長くするのは難しいです。短い音を長くする際にタイムストレッチというものがありますが、長くすれば長くするほど音質が不自然になってしまいます。
なので、音の長さは可能な限りボーカロイド側で調整した方が良いですね。
choro
BRE(ブレシネス)…音量・声質系
声に含まれる息の量を調節。値を大きくすると息の量が増えハスキーな声質になるみたいです。
↓↓BRE最大値(デフォルトが最小値のため、最大値のみ)
上原
基本、エンジニアがこのパラメータを触るとしたらそういった専用のプラグインを持ってないと出来ないですね。
僕が知ってる限りでは、Antares Audio Technologiesから出ているA VOXというプラグインバンドルでこういった事を調整出来そうですが、僕はこのプラグインを持ってないので調整出来ません。
プラグインに関しては下記のリンクを参照にしてください。
choro
BRI(ブライトネス)…音量・声質系
声の明暗。値を大きくすると声が明るくなり、小さくすると落ち着いた声質になるようです。
↓↓BRI最小値
↓↓BRI最大値
上原
エンジニアの作業としてEQで中高域を上げるものとほぼ同じ感じです。
BRI最大値だと音質的なバランスが良さそうなので、オーディオデータで書き出してもらう際にはBRIのパラメーターを上げてもらった方が良いかもしれません。
この作業自体はエンジニア側でも可能です。
choro
CLE(クリアネス)…音量・声質系
声の張り具合を調節。値を大きくするとシャープで張りのある声になるようです。
↓↓CLE最大値(デフォルトが最小値のため、最大値のみ)
上原
これはEQで高域を上げるような感じですね。ただし、ミックスでは基本サシスセソ音に含まれるような高い成分を抑えるようにするので、これはあまり上げすぎない方が良さそうです。
choro
OPE(オープニング)…音量・声質系
口の開け具合を調節。値を大きくすると口を大きく開けたよく通る声に、小さくすると口を閉じてくぐもったような声になるようです。
↓↓OPE最小値(デフォルトが最大値のため、最小値のみ)
上原
EQで高域を落とすなどして再現出来なくもなさそうですが、音を聞く限りでは言葉によって変化が変わっているので、これと同じ事をして欲しいとなるとかなり難しいですね。
これは基本デフォルトの最大値の方が良さそうです。最小値にしてしまうと、音質的にこもり過ぎているので、結局EQで高域を補正する事になりそうなので、この値を触るなら適度にしてもらった方が良いですね。
choro
GEN(ジェンダーファクター)…声質系
声質調整。値を大きくすると低音域の強い男性的な声に、小さくすると高音域の強い甲高い声質になるようです。
↓↓GEN最小値
↓↓GEN最大値
上原
これは完全に声の成分が変わってますね。これをエンジニア側で再現するとなると先ほど紹介したような声を変化させる事の出来る専用のプラグインが必要です。
choro
POR(ポルタメントタイミング)…音程変化
音程の異なる2つの音符の音程が変化するタイミングを調節。
値を大きくすると遅いタイミングで、小さくすると早いタイミングで音程が変化する感じです。
↓↓POR最小値
↓↓POR最大値
上原
これはピッチが上下しているので、ピッチを補正出来るオートチューンなどである程度再現が出来そうです。ただし、エンジニアが使うオートチューンなどはあくまで少しだけ表現を足す、補正する程度なので、ニュアンスまでを変える事は難しいですね。
choro
ありがとうございます。
今回、ボーカロイドの声の編集を上原さんに全てお願いしたのは、僕が実際このパラメーターをいじってみて、これだったらミックスの編集で使うテクニックだと思うし、より高機能に波形を使って編集できるエンジニアさんにお任せしたほうがいいと思ったからなのですが。
改めてボーカロイドソフトのほうでしか編集できないものってこの中にありますか?
【補足】こちらがボカロ編集前の音源です↓↓
【補足】↓↓こちらがボカロ編集後の音源です↓↓
上原
エンジニアがやる事としては、声そのものに表情を足したり、整えたり、聞こえやすくしたりという事しか基本的には出来ないんですね。
声のキャラクター自体を変えるという事は出来ないんです。極端に言えばchoroさんが歌ったものを上原が歌ったものに変えるといった事は出来ないという事です(笑)
なので、声質を変える辺りのパラメーターはchoroさん側で調整してもらう必要がありますね。
choro
なるほど。
実際に上原さんに編集してもらって、かなり声や発音が人間っぽくなったのですが、どのようなテクニックを使ったのでしょう?
また、実際に完成までに行った作業を全て教えてもらえますか?
(次回に続く)
最後に
長くなってしまうので、この対談の続きは明日(4/4)公開します。よろしくお願いします。
>【追記】後編書きました!
プロのエンジニアが教えるボーカロイドの調教テクニックとコツ(後編)
今回の対談のテーマとなった『全力症状』ですが、choroさんと上原さんによる、CCライセンス(クリエイティブ・コモンズ・ライセンス)を使った改変、二次創作、そして商用利用を推奨するプロジェクト(第1弾)の対象楽曲となっています。
フルverに加え、カラオケ音源、パート別素材まで自由にダウンロード可能。
パート別「歌ってみた」、「演奏してみた」はもちろん、歌詞・メロディ・編曲をアレンジした作品、本作品を使用したムービー制作など、幅広い用途で利用可能です。
楽曲やパート別の素材ダウンロードはこちらからできます。
http://choroidea.com/DISCO/ZENRYOKU_syndrome/
ぜひ挑戦してみてください!