
Detail
Meta、TikTok、X、YouTubeといったSNS広告は正しく使えば音楽を届ける強いツールです。ただ、間違った設定のまま回すと、予算だけが静かに確実に溶けます。
厄介なのは、溶けていることに気づきにくい点です。管理画面には数字が並びます。クリックも伸びています。それなのに、曲を聴いてくれる人は増えていない。そういう相談を、これまで何度も受けてきました。
今回は、過去10年で何度も見てきた「予算が溶けるNG行動」を5つ書きます。
※本記事はTOKIO TOKYOさんのnoteに触発されて書きました。こちらもぜひ。
▼アーティストがSNSでバズるために絶対にやってはいけないNG行動5選
https://note.com/tokiotokyo/n/nbf1cc119aff2
NG① クリック最適化を使う
SNS広告では機械学習の方向性を定めるモード設定を行います。例えば「リーチ最適化」であればできるだけ安くたくさんの人にリーチするモードで広告が配信されます。「クリック最適化」というのは、ターゲティングしたリスナー層のなかから”広告をクリックしてくれやすいリスナー“に広告を優先的に表示するモードのことです。私の認識では、音楽業界でもっとも多用されているのがこれです。
このモードの問題は「クリックしやすい人」が「楽曲を聴いてくれる人」ではない、ということです。
「いや、広告クリックしたならその楽曲に何かしら興味があるわけだから、楽曲も聴くでしょ」と思う方。恐らく広告クリックと楽曲視聴の距離を計測したことがない方です。世の中には、広告をよくクリックする層が確かに存在します。SNS広告はその人たちを見つけるのが上手い。だから安いクリックはいくらでも買えます。でも、その先でDSP(音楽ストリーミングサービス)の再生ボタンを押す人は増えません。安いクリックを大量に買っても、楽曲を聴く前に離脱するリスナーが大量に発生するだけです。広告クリックと楽曲視聴の間には断崖絶壁が存在します。
個別具体名を伏せつつ実例を書くと、とある会社さまが運用しているデジタル広告のレポートを共有いただいたことがあります。その広告キャンペーンはLinkfireのスマートリンク(各配信サービスへの入口をまとめた1枚のページ)を広告遷移先にした、クリック最適化のキャンペーンでした。

そのキャンペーンでは広告クリックが数千回発生していたのにもかかわらず、再生ボタンクリック数は100回未満。つまり広告だけクリックして途中離脱するリスナーに広告が集中してしまったというわけです。Linkfire再生ボタンクリック1回あたりの単価を計算すると、当社平均の32倍も高騰してしまっていました。
見せかけのクリック数だけ良好に見えて中身が伴わない。「死んでるクリック」だけが積み上がる。これが一番よくある溶け方です。
はっきり書きますが、クリック最適化を卒業できない限り、デジタル広告はいつまで経っても初心者のままです。ここを越えられるかどうかが、最初の分かれ道になります。
代替案。成果地点を広告クリックの先の行動に置いた「コンバージョン最適化」(設定したゴールを達成してくれそうな人を探すモード)を使用して広告を配信してください。たとえばスマートリンク内の再生ボタンが押されたかどうか。ECサイトのカートに追加するボタンが押されたかどうか。購入完了ページが表示されたかどうか。こうした深い場所でのアクションをゴールに設定し、コンバージョン最適化で回します。これによって広告クリック後に楽曲を聴いてくれるリスナーに優先的に広告が配信されるようになり、クリックがそのままストリーミング再生数につながりやすくなります。
そして評価軸を変えます。成果指標としては信頼性が欠ける「クリック単価」ではなく、「コンバージョン単価」で見る。クリック率/クリック単価をKPIに置いた広告配信を卒業する。これだけでより高いパフォーマンスを担保できます。
「コンバージョン」の意味や重要性について詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
▼音楽業界の広告における「コンバージョン」の意味と重要性
https://gerbera-music.agency/blog/what-is-a-conversion/
NG② 広告の遷移先をApple MusicやMVにする
一番聴いてほしい場所に、直接飛ばしたい。気持ちは分かります。余計なワンクッションを挟んで途中離脱者が増えるよりも効率的だとも思えます。ただ、この「直飛ばし」を選んだ時点で、NG①の状態が確定します。
理由は一つです。コンバージョン最適化がそもそも使えなくなるからです。
媒体に「こういう人を探してきてほしい」と学習させるには、成果が生まれたことを媒体側に伝える必要があります。そのために、遷移先のページに計測タグ(媒体が発行する数行のコード。ピクセルとも呼ぶ)を設置します。リスナーが再生ボタンを押したら、そのタグが「成果が1件出ました」と媒体に送り返す。この往復があって、はじめて機械学習は「聴いてくれる人」を探せるようになります。
ここで問題になるのが、Apple Music や YouTube は自社のページではないという点です。他社が運営しているサービスに自社の計測タグを埋め込むことは原則できません。
タグを置けないと、媒体は「成果が出ました」という報告を受け取れません。報告が来なければ、誰が担当アーティストと相性良かったのかを媒体側は判断できません。つまり、コンバージョン最適化という配信方法そのものが成立しなくなります。実際、キャンペーンを作る画面で成果地点を選ぼうとしても、指定できるものが用意できません。
こうなると、選べる配信方法はクリック最適化しか残りません。「Apple Music に直接飛ばす」という判断と、「クリック最適化」という判断は、別々のことのようでいて、実は同じ一つの判断です。 前者を選んだ時点で、後者も決まってしまいます。
また、クリック最適化によって楽曲を聴く意欲の低いリスナーをSpotifyやYouTubeに大量に送客するとによってそれぞれのアルゴリズムが混乱。ノイズが混ざることで誰に楽曲をおすすめすれば良いのか分からなくなります。つまり、広告実施後におすすめ表示回数が減少するリスクがあります。実施後にSpotify/YouTubeのオーガニック再生数が落ちてしまうとしたらかなりのダメージではないでしょうか。
代替案。自分たちで管理できるページを、間に1枚挟んでください。自社で管理するページなら、計測タグを置けます。そこに設置した再生ボタンのクリックを成果として媒体に返せるようになり、コンバージョン最適化が使えるようになります。

この遷移構造を先につくってから、広告を運用する。順番が逆になると、あとから遡って測ることはできません。
なお当社が見ているのは、再生のさらに先です。もう一度聴いてくれたか。保存してくれたか。フォローしてくれたか。誰かに共有してくれたか。ファンが反響をSNSに投稿してくれたか。そこまで見るためにも、入口の計測は必須になります。
なお、この話をすると「とはいえ、直飛ばしで送客数を最大化したほうがパフォーマンスが高いケースもあるんじゃないの?」と思う方もいるかも知れません。この問いに回答するため、①Apple Music直飛ばし(リンククリック最適化)と②Linkfire飛ばし(コンバージョン最適化)のパフォーマンスを競わせる実験をしたことがあります。モードだけ変えて、他は全て条件を揃えたA/Bテストで、媒体はInstagram広告を使用しました。
結果、Apple Music再生数において、Apple Music直飛ばしはLinkfire飛ばしに惨敗しました(本実験は他施策の成果が混ざらないようにアーティストの稼働や宣伝活動が行われていない時期に実施しました)。
それだけではなく、Spotifyの再生数/リスナー数/セーブ数、YouTubeのチャンネル登録者数/高評価数/コメント数、YouTube Music再生数、Instagramフォロワー数においても全てLinkfire飛ばしが上回る結果となりました。Linkfireのようなスマートリンク(リンク集約ページ)は複数プラットフォームに誘導できるので、これについては当然といえば当然なのですが。
本件について1点補足すると、当社が保有しているのは一般的なLinkfireとは仕様が異なります。当社LinkfireはコンバージョンAPIという広告のパフォーマンスを最大化させるシステムを入れており、かつ、その品質スコアも最高レベルを常に維持しています。そのため、本記事に書かれていることをそのまま模倣しただけで上記のような結果が出る保証はないという点は補足させていただきます。

「コンバージョンAPI」の意味について詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
▼Gerbera Music AgencyはコンバージョンAPIを実装しました
https://gerbera-music.agency/blog/conversionsapi/
NG③ 広告動画/画像を1本で配信する
渾身の1本ができたらそれで勝負したくなりますし、複数本の広告クリエイティブ(広告として配信する動画や画像)を用意するのは手間です。
ただ、広告クリエイティブのどれがフィットするかは、配信する前には誰にも分かりません。私にも分かりません。10年やってきて、事前の予想が外れることは今でもあります。1サビ/ラスサビ動画がAメロ動画に敗北した経験は300回では収まらないかと思います。
1本勝負にすると、当たり外れが運になります。そして外れたとき、最悪の結論が残ります。「広告は効かない」という間違った学習です。効かなかったのは広告ではなく、その1本だったかもしれないのに、それを確かめる手段がない。
これが三つ目の溶け方です。予算だけでなく、次の挑戦の意欲まで削られます。
代替案。複数本をつくって、どれが一番成果を出すかテストしながら配信してください。当社では原則、1案件あたり最低6本以上を使用して広告配信します。多いと感じるかもしれませんが、外れを引く確率を下げるための本数です。
曲のどこを切り出すかも、複数試してください。サビだけが正解とは限りません。イントロやAメロなど、サビ以外の箇所が跳ねることは本当によくあります。
なお、このあたりの話は冒頭でご紹介したTOKIO TOKYOさんの記事における「NG②:同じ箇所ばかりを、切り抜く」と同じです。オーガニック投稿においてもSNS広告においても、複数個所を切り抜いて楽曲のポテンシャルを漏れなく伝える努力が実を結ぶと認識しています。
もうひとつ重要な補足ですが、TOKIO TOKYOさんの記事に書かれているショート動画運用は、やればやるほどSNS広告で成果が出やすくなります。個別具体名は伏せますが、最近の当社実績において明らかに成果が出ている広告キャンペーンは、クライアントアーティストさまがショート動画制作/運用に注力しているケースが多いです。
MV切り出しの広告動画だけではなく、オーガニックで投稿しているショート動画も広告クリエイティブとして使用する。結果、オーガニック投稿されたショート動画がMV切り出しを上回るパフォーマンスを記録し、月間のストリーミング再生数が5倍、10倍に到達する新人アーティスト(元々の規模はSpotify月間リスナー数で数万人程度)が増えています。また、オーガニック投稿がバズったタイミングで素早く広告展開することで、ストリーミング再生数だけでなくライブの動員が飛躍的に増加したケースもあります。
SNSアルゴリズムが実質的に「新人アーティストのゲートキーパー」になってしまっている現在の音楽シーンにおいて、ショート動画と真剣に向き合う価値はSNS広告の視点で見ても飛躍的に高まっている印象です。
NG④ ターゲティングを絞りすぎる
ターゲティングは広告を届ける人の条件設定のことです。年齢、地域、興味関心などを指定できます。
ただ、ここ数年で、この機能の意味がかなり変わりました。
以前は、指定した条件が配信範囲のほぼすべてでした。だから「誰に届けるか」を人間が正確に決めることに、大きな意味がありました。
今は違います。主要な媒体は、指定された条件を「ターゲティングのヒント」として扱うようになりました。配信を始めると、実際に反応した人の傾向を読み取り、「ターゲティング外だが似た反応をしそうな人」を探しにいきます。この探索の精度が、数年前とは比べものにならないほど上がりました。
ここで、興味関心をいくつも重ねたANDターゲティング(複数の条件を「すべて満たす」ユーザーだけに広告を出すターゲティング設定のこと)で絞りすぎると何が起きるか。この探索機能を、こちらの手で止めてしまうことになります。機械が「この人たちも合いそうです」と提案してくる余地が、最初から存在しなくなるわけです。
他にもパフォーマンスを悪化させる要素が2つあります。狭い枠を他社と取り合う形になるので広告表示単価、クリック単価、コンバージョン単価が上がること。母集団が小さすぎて、機械学習が傾向を掴むためのデータが足りなくなることです。
代替案。広めに始めて、機械学習に探させる。そのうえでデータを見て、明らかに反応が悪い層を外していく。順番としては、先に広く、あとから調整です。
SNS広告の機械学習人間が発達したことによって人間が注力すべき内容は変わりました。「誰に見せるか」を細かく指定することよりも、ターゲティングした層のなかでも成果につながる可能性の高いリスナーに広告を優先表示できるようなモード設定を行うこと、そしてリスナーに複数の広告クリエイティブを提示すること。
通常の広告運用よりも運用にかかる工数は相当増えますが、2026年現在の広告運用においてはこれらが有効です。
NG⑤ 複数の媒体に予算を分けすぎる
Instagram も TikTok も YouTube も X も気になりますし、1つに絞って外したら怖い。できるだけ複数媒体で露出して少しでもアーティスト/楽曲の認知を取りたい。「とにかく多くの面を押さえろ」と上司に言われてしまっている。少額で多くの媒体に分散させるのは、これらをクリアするうえで手堅い判断に見えます。
ただ、広告ではこれが逆に働きます。
たとえば30万円の予算を、10万円ずつ3つの媒体に分けたとします。媒体の機械学習は、それぞれ別々にゼロから学習を始めます。10万円ずつでは、学習が終わる頃に予算を使い切ってしまいます。つまり、本来のパフォーマンスが発揮できないままキャンペーンが終了します。
結果、どの媒体でも「成果が出たのか出ていないのか、判断がつかない」結果が3つ並びます。リスクを減らしたつもりで、「何も分からないまま全部溶ける」リスクを取っていた。五つ目の溶け方は、この分散によるものです。
代替案。30万円程度までの予算なら、任意の1媒体に寄せて配信してください。1つの媒体で機会学習を完走させるほうが、同じ総額でも多くの成果を生み出します。
どうしても媒体を比較したいときは、条件があります。成果指標を揃えることです。どの媒体でも同じページを広告遷移先に設定し、コンバージョン単価を横並びで比較できる状態にする。そのうえで成果単価の良かった媒体に早い段階で予算を寄せていきます。
分けたまま最後まで走るのではなく、比べて、寄せる。ここまで設計できるなら、複数媒体運用は武器になりえます。
おわりに
本記事は、広告主さま側が「ストリーミング数/リスナー数を最大化させたい」という目的を持っていることを前提として書いています。仮に広告配信の目的が純粋な「広告のリーチ数/広告表示回数」である場合は話が変わってきます。音楽業界各社さまと日々お話をするなかで、まずは認知を最大化させたいというご要望をいただくことは少なからずありますし、対象となるアーティストさまの状況によってはそれがベストなケースもあります。この点を最後に補足させてください。
なお、今回書いたような仕事に興味を持ち、当社とご一緒してくださる広告運用経験者を現在探しています。ご興味があれば当社採用ページもぜひ覗いてみてください。
▼Gerbera Music Agency 採用ページ
https://gerbera-music.agency/recruit/
▼Gerbera Music Agencyの新ミッション・ビジョン・バリュー丨MVVはなぜあるのか、何の役に立つのか
https://note.com/konno108/n/n4f2f02a8190a
▼Gerbera Music Agencyが合わない人の傾向
https://note.com/konno108/n/n3bb1dfe7caef
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