遅ればせながら明けましておめでとうございます。
2016年もよろしくお願いします。
今回は、マネージャーは『アーティストの権利やブランドを守る番人』である、というお話をします。
アデルのマネージャーであるジョナサン・ディキンズが、2014年のトークイベントでこんなことを言っていました。
僕が感じるに、インターネットが成し得たことは、コンテンツがどこにでも存在できるってことだ。皆がコンテンツに飢えてて、僕が思うに、今まで起きたことっていうのは、コンテンツに対する飢えの一部なんだ。
我々は飽和点に達して、飽和点に達すると価値が低くなる。だから、僕がやる一番大事な仕事の一つは、Noと言うこと。
Noはどの状況にも起こりうる。例えば「僕はAdele香水はやりたくない」とか。「ナイルポリッシュをやるつもりはない」とか。もしくは「チケット価格が高すぎる」とか「デラックスアルバムはやらないしそれを4.99ドルで出すつもりもないし9曲をリリースするつもりもない」だとか。Noといえる力だとか、いろんな分野に関するJeffがさっき言ってた知識だとか、自分の権利を守る番人になってNoと言えることがキーだと思う。
引用:Web Summit 2014, Day 3. Music Stage. Jonathan Dickins and Jeff Jampol.
※田中純一さん(Actwitness)に翻訳していただきました。
自分はエージェントであってマネージャーの立場に立ったことはないので、話半分ですが、この『Noと言える力』はとても大事な要素なのだと思います。『その申し出はアーティストのためになるのか?』という問いに対して答えを出す判断力や先見性が求められるという意味で。
マネージャーはアーティストの権利やブランド(この場合ブランドイメージと言ったほうがいいかも)を守る義務があり、それを最大化させ、それを適切にお金に変えていく責務のある職業なのではないかと思います。
ジョナサン・ディキンズの発言から、守る対象は多岐に渡ることが伺えます。チケット料金や楽曲の権利はもちろん、担当アーティストのもつブランドイメージもその対象に入る。見せ方、見え方を左右する課題と言ってもいいと思います。
例えば、企業のブランディング案件(ブランド・スポンサーシップやブランデッドエンターテイメント等)は、そのアーティストがビッグネームであればあるほど申し出が多いはず。ジェイ・Zとそのマネージャーが自叙伝『Decoded』の出版にあたってマイクロソフトと交わしたパートナーシップであったり、レディ・ガガとジンガの『Born This Way』リリースにあたってのゲームキャンペーンであったり。
ここで1つ具体的な事例として、上記ジェイ・Z×マイクロソフトの『Decoded』出版にあたって起きた議論を記載します。
メニーリーは即座に反論した。「ジェイ・Zより目立つものは何ひとつ認められない。イベント参加者はそもそもビングを使ってゲームする必要がある。ただ、度を超すべきではない。マイクロソフトは、タイムズ・スクエアのビルボードにロゴを3つ掲示したいとまで言い出した。パネル3枚を組み合わせて、ひとつのイメージにするんだと! ジェイ・Zがいなかったら、このキャンペーン自体も存在しないことを思い出すべきだ」。グラウは、ジェイ・Zに加勢した。「これはビングのキャンペーンではないので、本を中心にすべきよ」。
ロゴをめぐる問題は、このパートナーシップで一番強い立場は誰かという激しい議論を呼ぶ前触れとなった。「金を出しているのはこちらなのだから、『わたしたちが決める立場にある』とこの場でいいたい」と、メフディは意見を述べた。「もちろん、ジェイ・Zのブランドとも一致させる必要はある。しかし、タイムズ・スクエアの3階分の掲示板の注文書がクリア・チャンネルから送られてくるとき、請求先はロック・ネイションでもランダムハウスでもない。マイクロソフトなんだ」。メフディは続けた。「2番手に甘んじざるを得ないと知っていたなら、この契約を検討さえしなかっただろう。ブランドに関して、クリエイティブ面の最終決定権を要求する。これは、ビングのユーザー基盤を拡大することが目的だ」。
メニーリーはこれに異を唱えた。「何といっても、これはジェイ・Zが承認すべきジェイ・Zのキャンペーンだ。マイクロソフトがマイアミのデラーノ・ホテルでジェイ・Zとイベントを開催したいなら……ジェイ・Zにそのイベントに参加してもらいたいなら、マイクロソフトはこのキャンペーンに参加する理由をよく考える必要がある。ジェイ・Zは掲示板などではない。わたしたちはクリエイティブ面の最終決定権を求める。費用を負担しているのはビング・チームのマイクロソフトかもしれないが、キャンペーンの主要な目的は、ジェイ・Zの本を売ることだ。いきなり書籍売上第1位にすることだ」。
引用:ブロックバスター戦略―ハーバードで教えているメガヒットの法則
あくまで推測の域を出ませんが、2つの異なるブランドを1つのキャンペーンで括ることの難しさは相当なものではないかと思います。
アーティストにはアーティストが保持したいブランドイメージがあり、企業には企業のそれがある。その中で、双方のブランド価値を最大化させるメッセージや文脈やタッチポイントを見つけていく必要があります。
引用したブロックバスター戦略にもある通り、現在はスターに資金を集中投下させて一人勝ちを狙う戦略が多く採用されています。伴って、レコード会社やマネジメントには調達しきれない資金や流通網を企業から賄うケースが少なからず発生します。
成功すればレディ・ガガのように突き抜けられるかもしれませんが、うまく行かなければブランドイメージを損なう可能性があります。そのリターンとリスクを天秤にかけ、判断しなければいけません。
『はたして乗るべきか否か?』
さまざまなタイプの収益源を確保することが求められるこれからを考えるにあたり、これは注目する価値のあるポイントだと思います。
※引用箇所の太字と改行は筆者によるものです。
おまけ(後日談)
アデル「25」、定額音楽配信サービスでの配信を拒否https://t.co/2ACDX3aRfD
なんと、恥ずかしながらこれは知らなかった。
— 金野和磨 GMA (@konno108) 2016, 1月 26
以前、こんな記事を書きましたが、配信拒否は結果的にアデルに大きな利益をもたらすことになりましたね。配信拒否を決めたのもジョナサンかもしれないなぁ。
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アデルのマネージャーが重要だと語る『Noと言える力』とは https://t.co/WUEkI2WQq1
— 金野和磨 GMA (@konno108) 2016, 1月 26
(アデルのマネージャーの)ジョナサンは、
『飽和点に達すると価値が低くなる。だから、僕がやる一番大事な仕事の一つは、Noと言うこと。』
と言ってたけど、これはまさに今のSpotifyにあてはまることかもしれない。
勿論、ぶっちぎってるアーティストだけが選べる戦略ですが…
— 金野和磨 GMA (@konno108) 2016, 1月 26
『Noと言う力』というのは、アーティストのためにどんな舵取りをすればいいかの軸をブレずに持ち続ける力(=情報網やバランス感覚等)。
世界で最も売れている→伴って引き合いの数もめっちゃ多いアデルの門番になるには、かなり高いレベルでその力を求められるので、この人はやっぱり凄い。
— 金野和磨 GMA (@konno108) 2016, 1月 26